こんな物、食えるのか!?
グロテスクな食材を使った手料理が、一家団欒のテーブルの中央に自慢げに、山盛で置かれている。次から次に、小さな子供からお爺ちゃん、お婆ちゃんまで大きな口を開けて食べている。
「ケンミンショウ」、みのもんた司会のテレビ番組の一場面だ。お決まりのカットは、その土地の人が「そんなこと何が不思議なの?」という表情。
都道府県各地で独特な食材や風習などが生まれるのは、地勢の影響を受けていることを知っている人は多い。しかし、その地勢に「峠の表裏理論」と呼ばれるものが存在することはあまり知られていない。
峠の勾配と文化の伝播ベクトル
国が違えば言葉が違う、味噌汁の具材も味噌も違う。しかし時間の経過とともに、少しずつ少しずつ交流が始まり、やがて深く混じり合っていく。
それは、峠の表から裏へと伝わって行く。
- 峠の表側:頂上近くが急に険しくなる。
- 峠の裏側:麓に近い所が急に険しくなる。
- 峠の表側の麓は、裏側の麓より経済力があり文化も進んでいる。
※ 右上図の形態の峠が日本では最も多い。
峠の表裏理論
著名な民族学者、柳田國男は峠歩きを趣味とし好んで全国を巡った。そして、著書「秋風帖」の「峠に関する二三の考察」の章で峠の表と裏について、以下のように言及しています。
※ 峠に関する書籍は、意外なほど多くあります。このブログでは、「峠の本棚」のページでご紹介しています。
旅人は誰でも心づくべきことがある。頂上に来て立ち止まると必ず今まで吹かなかった風が吹く。 テムペラメントががらりと変わる。単に日の色や陰陽の違うのみならず、山路の光景が丸で違ってゐる。
麓から頂上までの路は色々と曲折していても、これを甲乙2種類に分類することが出来る。
※ テムペラメント:精神的素質。気質。
- 甲:水の音の近い山路、頂上に近くになって急に険しくなる路
- 乙:水の音の遠い山路、麓に近い部分が独り険しい路
甲を峠の表、乙を峠の裏と呼ぶ。
都道府県境を指で辿ってみる
手元に道路地図があれば住んでいる都道府県の境を指で辿ってみましょう。一つ二つ・・・と峠があることが実感できます。そこで、道路のうねりぐあいを見てみると、峠の表と裏が見えてくるはずです。
また、トンネルや新しく開発された道であれば、その脇にある細い頼りない線が旧道です。その旧道は、大きくうねっているでしょう。そこを昔の人は、ジグザグ・ジグザグと登って下りました。
あなたには、山路からの水音が聞こえてきましたか?