長野峠/もののけの叫びが暗闇の廃隧道に響き渡る


闇の中へ足を踏み入れると「もののけ」の呻き声が無数に聞こえてくる。その声は反響し合い、しだいに大きくなり鼓膜を震わせた。この先は人が立ち入る場所ではないようだと、体が反応し始める。ヌルッ!堆積した泥に足が埋もれて動けない。

この深い闇の正体は、明治13年から昭和14年まで利用されていた廃隧道、長野隧道の内部だ。飛鳥奈良時代から存在した歴史深い長野峠の横っ腹をぶち抜いて開通した。

この動画は真っ暗で何も映っていないように見える。しかし、15秒あたりから右側に、ぼんやりと光る何か?が現れては消えてる。その昔、トンネルの掘削工事で亡くなった人が、今もさまよっているという噂のある心霊スポットなのだが・・・。

長野峠・Pass Hunting NO.133

  • 調査
  • 峠名長野峠(ながのとうげ)
  • 路線:旧国道163号
  • 所在:三重県伊賀市上阿波∧津市美里町北長野
  • 座標:34.763800,136.329979
  • 標高:494m、路面:オンロード&旧道ダート
  • レビュアー峠ノ太郎(セロー250)
  • おすすめ度 5

長野峠は、飛鳥奈良時代から拓かれていた伊勢神宮へ通じる奈良街道(伊賀街道)の峠の一つ。明治18年に初代、昭和14年に二代目、平成20年に現在の長野トンネルが開通している。

長野峠の地図

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  • PIN:長野峠
  • 1点:旧国道163号伊賀市側進入口
  • 2点:二代目長野隧道の伊賀市側
  • 3点:旧国道163号津市側進入口
  • 4点:二代目長野隧道の津市側
  • 5点:県営林道経ヶ峰線(美里町側)

長野峠を越え明治時代まで利用されていた旧伊賀街道ルートが現存するため、複数の方向からトライしたがバイクで完走はできなかった。

長野峠 Pickup Photo

旧国道163号の風化しはじめた黄色実線1点:まず、伊賀市側の旧国道163号から二代目長野隧道へ向かう。途中には、トンネル通行不可と注意する看板が幾つも立っている。どのような姿をした廃隧道なのか、風化した追い越し禁止の黄色実線がワクワク感を盛り上げる。

旧長野隧道
2点:誰もいない九十九折れの旧国道163号を上り切ると、二代目長野隧道へ到着した。V字型にえぐられた山腹を貫通した大穴も、今では鉄板で固く塞がれていた。前衛芸術のオブジェのように、倒木が廃隧道のある風景にマッチしている。

長野隧道
2点:長野隧道と刻まれた文字にも年輪を感じる。近づくとトンネルをふさぐ鉄板の隙間から、冷気が漂ってくるのを肌で感じる。内部はどのような状態なんだろうか。緑に包まれたような空間の居心地の良さを、しばらく楽しんだ。

従是旧長野峠道2点1点:次は裏の津市側から旧長野隧道を見るために、国道163号の新長野トンネルをくぐる。戻る途中に、『従是旧長野峠道』と刻まれた道しるべが目に付いた。旧長野峠道を走れれば、こんなラッキーなことはない。

旧長野峠道
植物が堆積してフワフワした良いダート道だ。しばらく進むと道は二股に分かれており、両方向とも走ってみたがバイクでクリアするのは難しく途中でUターンした。

津市側の旧長野隧道
4点:新長野トンネルをくぐり、津市側の旧長野隧道に到着した。どちらかと言えば、伊賀市側の方が好みだ。津市側は、ひなびた感じがやや薄い。周囲には石碑やら周辺マップやら色々な物がある。

風力発電の風車
4点:グワングワンと頭上方向から音が聞こえるので見上げてみると、風力発電の風車が回っていた。

明治のトンネル4点:『明治のトンネル』と書かれた方向に登ってみた。オフロードブーツだと急斜面を歩くのが辛い。

初代長野隧道
4点:さほど時間も掛からずに初代長野隧道へ到着する。この初代長野隧道は明治13年から5年間掛けて岩盤を掘ったものだ。

日本には山岳信仰があり、山に穴を開けトンネルを造ることをためらった。そのために峠が発達し、国字ができ神のいる場所として峠が大切にされた。

関連投稿:峠、それは日本の国字であり神を祀るところ

近代土木遺産の総切石造り
4点:近代土木遺産の総切石造りのアーチが美しい。

明治時代の長野隧道内部
4点:内部を覗くが真っ暗で何も見えないので、フラッシュを焚いてシャッターを切る。奥の方から色んな音が聞こえてくる。少しづつ内部に向かって歩いていく。柵の手前で足が動かなくなった。堆積した泥がスライム状になっていて、足がめり込んでしまった。こんな所で転倒したら・・・、と思うだけでゾッとする。

長野峠ウォーキングコース4点:長野峠ウォーキングコースという地図があったので、周囲の状況を確認すると県営林道経ヶ峰線と江戸時代の伊賀街道が交差していたので確かめに行くことにした。

長野峠PIN:旧伊賀街道を示す看板を発見。長野峠の方向を示す矢印もあった。事前に国土地理院の地形図で調べた位置と、どう考えても違うようだがさらに入ってみた。

旧伊賀街道5点:150mぐらい進んだ所で落石が前方を塞いでおり、片方が崖になっていたので残念ながら諦めてUターンする。帰宅後に長野峠の位置が気になり、蔵書の庄山剛史氏の著書『三重の峠』を読むと地形図に誤りがあると記載されていた。

林道経ヶ峰線5点:林道経ヶ峰線は、山肌を巻く眺望の良い明るい林道だ。この周辺に良い舗装林道が多くあるのは、風力発電施設の影響だろうか。

風車群5点:風車群も見える山肌を巻くように走る林道経ヶ峰線は、明るくて眺望も楽しめ気持ちが良い。これまでにブログに掲載したおススメの明るい林道をまとめて紹介します。

長野峠の四方山話

  • 伊賀街道、最大の難所峠だった。
  • 松尾芭蕉の出身地に近く、その正体に忍者説あり。
  • 本能寺の変で徳川家康は、御斎峠~長野峠を越えて三河に逃れた。
  • 『日本書紀』には、「山暗くして進行すること能はず」とある。
  • 峠の名は、南北朝から戦国時代まで長野氏の支配地だったことから。
  • 江戸時代には伊賀七口と呼ばれ軍事上最も重要な拠点となった。

参考文献:『日本百名峠』
参考文献:『三重県の峠 ‐自転車でめぐる峠の魅力‐』

長野峠の位置図

長野峠の位置図

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編集後記

闇の中から聞こえてくる声は、どうでしたか?今回は、ただの旧国道かと思っていたら嬉しい誤算でした。三代の隧道にダートの旧道、明るい林道と盛り沢山で楽しいツーリングになりました。今回は、あと二つの峠を越えています。

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