峠の魅力に取り憑かれた賢人達の残した書籍の数は意外なほど多く、その内容は日本の文化・歴史・信仰・ガイド、小説など多義多様に渡ります。実際に訪ねた峠について書かれているページをめくり、歴史的な背景などを知ることによって、2度も3度も同じ峠を味わうことができます。そんな、おススメの峠に関する役立つ本をまとめています。
【目次】
- 歴史・文化・日本全域に関する書籍
- 近畿地方の峠に関する本
歴史・文化・日本全域に関する本
峠に関する歴史や文化と日本全域の峠を掲載している書籍です。著者独特の峠に対する思いの熱さに驚くと同時に、日本のことが益々好きになります。
峠の歴史学 ‐古道をたずねて‐ ※001
著者:服部英雄(はっとり・ひでお)
出版所:朝日新聞社
初版発行:平成19年9月25日
峠は日本各地に数多く存在するが、著者は峠を「信仰の道」「流通の道」「軍事の道」の3つに分類できるとしています。この分類が峠の歴史的背景を理解するのに、スッキリと馴染みやすいものにしてくれます。また、本文にある「道を、峠を、多くの人が歩んだ。峠に性格があるとしたら、それは峠を歩いた人たちの性格を意味するのだろう。」という一文が印象に残る。
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峠と人生 ※002
著者:直良信夫(なおら のぶお)
出版所:日本放送出版協会
初版発行:昭和51年5月20日
著者は明石原人の発見者であり、松本清張の名作「石の骨」のモデルです。峠を文化の側面から考察している箇所が面白く、特に国字である「峠」の「裃(かみしも)」との構造の近縁性から、「垰」「屹」「乢」「辿」「嵶」などの当て字との関連性には興味を引かれます。峠のことが好きでたまらない著者の気持ちが伝わる一冊です。
秋風帖 ‐峠に関する二三の考察‐ ※003
著者:柳田國男(やなぎだ・くにお)
発行所:博文館
初版発行:明治43年2月1日
民俗学者で有名な柳田國男氏は、峠を越えることを趣味としていました。その体験から「旅人は誰でも心づくべきことである。頂上に来て立ち止まると必ず今まで吹かなかった風が吹く。・・・。」と、峠へ至る道には表と裏のあると指摘しています。この文化の伝達に関わる「峠の表裏理論」と言われる考察が書かれている著書です。
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日本百名峠 ※017
編者:井出孫六(いで・まごろく)
発行所:株式会社桐原書店
初版発行:昭和57年5月1日
「アトラス伝説」で直木賞受賞の井出孫六と12名で全国の峠から都道府県と沖縄の代表峠を選出してから百峠に絞った。そのために東北・甲信越の名峠には泣いてもらったとある。各峠のモノクロ写真が味わい深く、執筆者による文体の違いが面白い。末尾には、全国の主要峠1,000のリストが掲載されている。
歴史と古道 ‐歩いて学ぶ中世史‐ ※019
著者:戸田芳実(とだ・よしみ)
発行所:人文書院
初版発行:平成4年6月25日
著者は日本の歴史学者であり神戸大学名誉教授、中世の日本史が専門分野です。
近畿地方の峠に関する本
近畿地方(三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)の峠を中心として掲載している書籍です。京の都を中心とした街道筋の峠や伊勢・高野山へ向かう参拝道など、いにしえの風景に出会うことが出来ます。
北山の峠 -京都から若狭へ 上中下‐ ※004
著者:金久昌業(かねひさ・まさなり)
出版所:ナカニシヤ出版
初版発行:昭和53年11月5日(上巻)
どの峠にも著者が撮った点景のモノクロ写真が、一枚だけ末尾に掲載されている。著者は、そんな質素で飾り気の無い峠の姿が好きなんだと思う。山の会「北山クラブ」の創設者で京都北山の第一人者の書いたこの本は、絶版になりプレミアが付いている。収録されている峠の数は、98峠にものぼる大切な一冊です。
京都北山と丹波高原 ※005
著者:森本次男(もりもと・つぎお)
出版所:山と渓谷社
2版発行:昭和40年4月1日
著者の森本次男氏の名前は、京都北山関連の書籍には度々登場してきます。また、初版は戦前であり、長い年月の間に多くの北山を目指す人々に愛読された本です。この本を読めば、京都北山や丹波高原の魅力の理由が分かります。古い書籍の味わい深さを知り、久々に図書館に通うきっかけとなった一冊です。
播磨の峠ものがたり ※006
著者:須磨岡 輯(すまおか・あつむ)
出版所:神戸新聞総合出版センター
初版発行:平成24年12月13日
バイクで播磨(兵庫県西部地域)の峠を巡るなら、即戦力に必ずなる一冊。峠に関する書籍は、ハイカーをベースにしているが、この本の地図はバイク乗りにも馴染みやすく峠の位置も掴みやすい。嬉しいのが末尾に市町村ごとに198峠が一覧表になっているところ。なんと親切なんだろう。私のために書いてくれたような峠本です。
京阪神 峠の山旅 ※007
著者:財団法人大阪府社会体育研究所
発行所:七賢出版株式会社
初版発行:平成8年4月9日
内容的には登山ブーム・アウトドアブームの延長線として、歴史的背景や景観的に魅力のある峠を豊富な写真と共に紹介されています。
選択されている峠は、まさに京阪神を代表する立派な峠ばかりであり、ルートガイドもしっかりしているので十分参考になります。また、コースの難易度を★で表示しているので、バイクを降りて少し歩いてみるのもいいかもしれません。
近江の峠道 ‐その歴史と文化‐ ※008
企画:淡海文化を育てる会
編著者:木村至宏(きむら・よしひろ)
発行所:サンライズ出版
初版発行:平成19年11月25日
巻頭の峠の位置絵を示す地図を見ると、近江(滋賀県)の峠は隣接する府県との境界線上に点々と並んでいます。その様子から近江の国は近畿の水瓶、琵琶湖を中央に置く盆地であることがよく分かります。この本は、そんな峠の歴史を端的に知ることができる一冊です。38の峠を取りあげています。
峠と杉と地蔵さん ‐随想 京都北山・丹波高原/私の山旅から‐ ※009
著者:塩見 昇(しおみ・のぼる)
発行所:株式会社教育史料出版会
初版発行:平成23年8月10日
著者は日課として週に2、3回北山を歩いていると記されています。羨ましい限りですが、(社)図書館協会理事長でもあるためか、京都北山に関する書籍の紹介も随所にあり、また内容も幅広いが簡潔にまとまっていて優しい一冊です。
京都北山 ‐雪まろげ 藪まろげ‐ ※010
著者:歌川せいち
発行所:株式会社牧歌舎
初版発行:平成19年6月27日
この本は、峠を題材にしたものではありません。著者が藪を分け踏み跡のない雪上を辿って京都北山を登山した36コースを紹介しているものです。当然バイクで走れるようなコースではありませんが、紹介されているコース上にある林道の状況が文章から読み取ることができ参考になります。
京都・近江の峠 ※011
編著者:京都新聞社
発行所:株式会社京都新聞社
初版発行:昭和55年7月17日
京都と滋賀県の峠をピックアップして、その取り巻く背景をロマンチックにスパイスをまぶしながら歴史や伝説を食しやすくほどこしている。少しレトロになった写真に写る昭和な感じもどこか懐かしく親近感が湧いてくる一冊です。
京都 北山を歩く ‐地名言語・歴史伝承と民族を訪ねて 1~3‐※012
著者:澤 潔(さわ きよし)
発行所:株式会社ナカニシヤ出版
初版発行:1989年5月30日(第1巻)
京都北山を水系別に分類して紹介している。地名言語の世界に初めて触れたが、映画のインディージョンズの考古学者の主人公のように謎に向かい合っているような様が不思議。地図上の難解なパズルを少しずつ組み合わせて解を求めているようにも感じる。難解の一言につきる。
三重県の峠 ‐自転車でめぐる峠の魅力‐※013
著者:庄山剛史(しょうやま・たけし)
発行所:風媒社
初版発行:2005年4月28日
三重県内のサイクリングに適した38峠を紹介している。歴史的背景などの繊細で奥深い記述が、峠への興味深さを増してくれる。読むまではもっと軽い本かと思ったが、著者の郷土三重県の峠に対する執着心の強さというか愛情を感じる。同感できる部分が、真面目に笑える。
奈良県大和の峠物語※014
著者:田中紀子(たかな・のりこ)
発行所:東方出版株式会社
初版発行:2001年11月6日
奈良県を「大和高原地域」「大和平野地域」「五條・吉野地域」に分け、74の峠を紹介している。各峠には、徒歩で越えるコースのポイントからの距離と詳細な案内地図が記載されていて、ガイドブックとしても分かりやすい。地元の人々から取材された情報の新鮮さは、NHKのリポーターの経験のためでしょうか。
峠の地蔵 ‐京都 北山に捧ぐ‐※015
著者:井垣章二(いがき・しょうじ)
発行所:株式会社ミネルヴァ出版企画
初版発行:2006年10月30日
京都北山の「峠のお地蔵さま」を抜き出して36峠を掲載している。私も「お地蔵さま」には注意を払い、できるだけ写真に収めるようにしているが、この本を読むと見落としていることも多くあることが分かる。風化して路傍の石と区別も付かなくなった小さな「お地蔵さま」には、どこか人の心を惹きつける魅力がある。
紀州・熊野の峠道※016
著者:小板橋 淳(こいたばし・じゅん)
発行所:風媒社
初版発行:2010年1月30日
大阪の街道と道標 改訂版※018
著者:武藤善一郎
発売元:サンライズ出版
発行:平成11年12月15日
峠を訪ねていると街道と道標との縁の深さを実感するが、峠が点で示されているのと違い街道は線であり時代と共に変化しており把握しにくい存在だと感じていた。この本は実に繊細で、これまでもつれていた糸がほぐれるように解けていく。こんな人もいるのだと驚く。